2026.10.10
学習指導要領の改訂で、子どもの学びはどう変わる?AI時代に育てたい「自分の言葉」|全5回まとめ

学校で学んでいることを、AIが一瞬で答えてくれるとしたら。学校では、何を学ぶ必要があるのでしょうか。
いま、学習指導要領が変わろうとしています。
これは、「わが子がこれからどんな授業を受け、どんな力を身につけて大人になっていくのか」という、家庭にも関わる身近な話です。
Instagramで5回に分けてお届けした「学習指導要領の改訂から見えてくるもの」を、1つにまとめました。
そもそも、学習指導要領とは?
学校で「何を、どのように学ぶのか」を示す国の基準です。
改訂されると、何を、どう学ぶのか。何を評価するのか。どんな力を育てるのか。学校教育の方向性が変わっていきます。
つまり、子どもの授業や、テストの評価、友だちとの学び方にも関わってくるものなのです。
なぜ今、見直しが必要なのでしょうか
子どもたちを取り巻く環境は大きく変化しています。
不登校の増加と学校環境のあり方。
価値観や生き方の多様化。
デジタル技術やAIの急速な進歩。
今の子どもたちが社会に出る10年後、20年後には、「正解を知っている」だけでは対応できない場面が、さらに増えていくでしょう。
だから今、「学校で何を学ぶのか」が改めて問われているのです。
一つの正解がない場面で、支えになる力
たとえば将来、仕事でこんな場面に出会うかもしれません。
「この商品がなぜ売れなくなったのか考えてみてほしい」
そこに、一つの正解はありません。データを調べる。お客様の声を読む。社会の変化を考える。同僚の意見を聞く。そして、それに根拠をもって自分の考えを伝える。
そんな力と自信が、社会に出たときに大きな支えになります。
たとえば家庭でも、スマートフォンで見た情報をそのまま信じてよいか考える。家族で意見が分かれたときに、相手の考えを聞いて話し合う。失敗したときに、どうすれば次はうまくいくか考える。
これは、仕事だけでなく、日々の選択や、自分の人生を自分で選んでいくためにも必要な力です。
今、小学生の子どもたちも、10年後、20年後には社会で生きる一人の大人になります。人とどう関わるのか。情報をどう判断するのか。
学校でどんな学びを経験するかは、その子の将来だけでなく、家庭での会話や日々の選択にもつながっていきます。
だから、学習指導要領の改訂は「学校だけの話」ではないのです。
次の学習指導要領で示されている3つの方向性
次の学習指導要領素案には、
①「主体的・対話的で深い学び」の実装
② 多様性の包摂
③ 実現可能性の確保
この3つの方向性が示されています。
少し難しい言葉ですが、一つひとつ見ていくと、「これから、わが子が学校でどんな学びをしていくのか」が見えてきます。
AIの進化に、学校は対応できるのか?
AIは、これまで人がしてきたことを急速にできるようになっています。
だからこそ学校には、何を覚えるかだけでなく、自分で問い、考え、判断する力をどう育てるのかが問われています。
けれども、学習指導要領が変わったからといって、教室の授業がすぐに変わるわけではありません。
国が示すのは、主に教育の方向性です。その方向性をもとに研修が行われ、各学校が具体的な方法を考えます。そして最後は、先生たちが教室で試行錯誤しながら授業をつくっていきます。
先生に足りないのは「時間と余白」
しかし先生たちは、授業準備、評価、保護者対応、会議や事務作業などに日々追われています。新しい教育について調べ、授業を研究する時間は十分にありません。
新しい方法を試しても、続ける余裕がなく、以前のやり方に戻ってしまうこともあります。
先生が変わろうとしていないのではありません。変わるための時間と余白が足りないのです。
その一方で、AIは急速に教室へ入ってきます。十分に学ぶ時間がなければ、AIを使いこなせる先生と、使い方に戸惑う先生との差が大きくなる可能性があります。それが、子どもたちの学びの差につながるかもしれません。
AIを導入するだけでは、教育は変わりません。先生がAIについて学び、授業を考え、試すための時間が必要です。デジタル化によって事務作業が減り、子どもと向き合う時間を取り戻せるなら、大きな意味があります。
けれども、学校や先生の対応だけに任せておくことはできません。AIを使うのは、子どもたち自身だからです。
AIが出した答えをそのまま受け取るのか。自分で考え、判断し、よりよいものへ直していけるのか。
AIを使いこなすために、子どもたちにはどんな力が必要なのでしょうか。
AIを使いこなすいちばんの対策は?
それは、「自分の言葉」を持つことなのかもしれません。
AIに頼めば、整った文章を短時間で作ってくれます。自分では思いつかないような上手な言い回しも提案してくれます。けれども、それだけで「自分の文章」になるのでしょうか。
AIが作るのは、多くの場合、誰にでも伝わりやすい、きれいに整えられた言葉です。けれども、ならされた言葉は、自分が本当に感じていることと少しずつずれることがあります。
そのずれに気づくためには、自分は何を感じ、何を考え、どう伝えたいのか。自分の中に判断する基準が必要です。
AIが作った文章が、本当に優れているのか。自分の考えに合っているのか。それを判断できなければ、どれほど上手な文章が出てきても使いこなすことはできません。
料理のおいしさを判断できなければ、よいシェフにはなれません。文章も同じです。言葉のよしあしを感じ、選び直す力がなければ、AIが作った文章をよりよく仕上げることはできません。
AIの文章をそのまま使うのではなく、
「ここは私の考えとは違う」
「この言い方は私らしくない」
「本当に伝えたいのはこちらだ」
と、推敲する。その過程を通して初めて、本人の文章になっていきます。
AIは優秀な新入社員。決めるのは人間
AIは、とても仕事の速い優秀な新入社員のようなものです。けれども、何を任せるのか。出てきたものをどう判断するのか。どこを直して、どう仕上げるのか。それを決めるのは人間です。
どれほど名優がそろっていても、監督が作品の方向を決められなければ、よい映画には仕上がらないのと同じです。
「自分の言葉」を持つことは、AIに負けないためではありません。AIの力を借りながらも、最後は自分で考え、選び、決めるためです。
AIを使いこなせる子は、何が違う?
これから子どもたちが高校生、大学生になる頃には、AIとやり取りしながら文章を作ることが、今より一般的になるでしょう。自分の考えをAIに伝え、読んで修正し、問い直す。AIと対話しながら文章を作る時代です。
そうなると、求められる「文章力」も変わってきます。大切なのは、AIに何を問い、何を採用し、どう修正するのか。そして、「これは本当に自分の考えなのか」と立ち止まれること。AIが文章を作れるからこそ、人間には判断する力が必要です。
土台になる「知識や教養」と「自分の感覚」
その土台になるのは知識や教養です。知識が少ないと、AIの答えが正しいのか、別の見方があるのか、判断することが難しくなります。
一方で、本を読み、人の話を聞き、さまざまな世界に触れていれば、「別の見方」や「疑問点」も見つけることができます。知識は、答えを覚えるためだけでなく、疑い、考えるためにも必要です。
もう一つ大切なのが、「自分の感覚」です。AIの文章がどれほど整っていても、「私はそうは思わない」「この表現では伝わらない」と感じることがあります。その違和感に気づき、自分の考えや大切にしたいことを確かめる。AI時代には、こうした感覚も重要になります。
家庭でできることは、シンプル
では、こうした力を育てるために、家庭で何ができるのでしょうか。AIについて特別な教育をしなければ、と気負う必要はありません。家庭でできることは、シンプルです。
一つは、自分の考えや感じたことを安心して話せるコミュニケーションです。違う考えも言葉にできる日常が、「自分はどう考えるのか」に気づくことにつながります。
もう一つは、興味を持ったことを深められる環境です。本を読む。見に行く。作る。人の話を聞く。興味から始まる経験は、知識を増やすだけでなく、その子なりのものの見方を育てていきます。
あたたかなコミュニケーションと、興味を広げられる環境。その積み重ねが、知識や教養を広げ、自分の感覚を育てていきます。
AIが進化する時代だからこそ、人間の側の土台を育てることが大切なのだと思います。
AI導入で変わる先生の働き方
最後に、今回の改訂で私が楽しみにしていることをお話しします。
先生たちは毎日、授業を工夫しています。どんな問いを投げかけるか。どんな資料を使うか。小さな工夫で、子どもたちの反応は変わります。
でも、忙しい学校現場では、自分の実践を伝えたり、ほかの先生の実践を知ったりする時間がなかなかありません。せっかくのよい実践が、一つの教室にとどまることもよくあるのです。
企業では、一人ひとりが持つ知識や経験、仕事の工夫を「ナレッジ」として蓄積し、みんなで共有・活用する取り組みが進んでいます。
学校でも、「この問いかけで、話し合いが深まった」「この活動で、書けなかった子が書き始めた」そんな実践をAIで探して、参考にできたら、授業の深みは大きく変わっていくでしょう。
さらに、授業づくりに役立ったAIへの指示=「プロンプト」も共有できれば、一人ひとりがゼロから考えなくても、ほかの先生の工夫を生かすことができます。
今回の改訂に向けた議論では、学習指導要領をデジタル化し、授業づくりに活用しやすくする方向が示されています。先生たちの実践がつながっていく新しい取り組みです。
AIに授業を任せるのではなく、AIで、先生たちの知恵を紡いでいく。授業準備の負担が減り、子どもたちとの時間が増える。そんな働き方の変化を、私はとても楽しみにしています。

